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「本当、あの子は自ら棘の道を進むのよねえ。」 「あー、そうですよねえ。言っても聞かないですし。」 「そうなの、痛い目見ないと分からないし。」 「こっちが気を揉んでも伝わらない……。」 「そうなのよー。」  そうやって話せば話す程、万葉が久保を好きなのが分かってくる。  小一時間ほど話し合った後、一区切りついたところで江梨は万葉ににこりと笑ってみせた。 「万葉ちゃんったら、本当に貴俊の事が好きねえ。」 「え……?」 「だって、あなた、貴俊の事、ちゃんと見てるじゃない。」  良いところも、悪いところも。  格好良いところも、情けないところも。 「正直、『ビジネスライクな話』って聞いていたし、あなたと貴俊の事でこんなに話し込めるだなんて思って無かったわ。随分、長い事、貴俊の事を見てきたんじゃない?」  そう江梨に指摘されて、万葉はそれまでとは一変し、急に口重くなった。 「……ちゃんと見ていたって、ダメなんです。」  愛情は「時間」で量れるものではない。  ましてや「いかに知ってるか」で量れる物でもない。  ただ、互いの心を求め合い、過不足なく与え合う事でのみ量れるものだ。 「最初から分かっていたんです。彼が愛して止まないのは、進藤さんだって。」  そして、彼女と彼女の夢を守る為に、彼が自分との結婚を選ぶ事も分かっていた。  ――だけど。  江梨と話をする中で、万葉は久保の真意に気付いてしまった。  ――彼は自分を選んだのではない。  ――「亜希」を選ばなかっただけだ。 「……私は同じ土俵にすら上げて貰えないんです。」  久保の中にはいつだって亜希があって、彼は彼女と生きるのか否かを選んだに過ぎない。  そこに「倉沢 万葉」の存在は無く、入り込む余地も無い。 「本当、酷いヒト……。」  いっそ亜希と二人、手に手を取って、どこかに駈け落ちでもしてくれれば恨めるのに。 「『進藤さん』って、『進藤 亜希』さんの事?」 「ええ。もう彼女にお会いに?」 「……いいえ、直接の面識は無いわ。ただ貴俊の話に出てきたの。」 「――そうでしたか。」  万葉は短く相槌を打つと、そのまま目を伏せて呼吸を整える。 「進藤さんは不思議と人を魅了するんです。」  久保だけでなく、高津までもが亜希に夢中になっている。
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