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「失礼します」
痛い目に遭わされたことは一度もないが、この部屋に入る時にはいつも緊張する。
「忙しい中、ありがとう」
総経理(しはいにん)は目を糸にして笑っている。
いつもこういう邪気の無い顔つきをしてくれていればいいのに。
「これが新しい曲の楽譜だ」
差し出された数枚の紙を受け取る。
タイトルは「花様年華(花のような時代)」。
少し前に周【王+旋】(ジョウ・シュエン)が歌って流行った曲だ。
――美麗的生活(麗しい暮らし)。
周?の高らかに歌い上げる甘い声が耳の中に蘇る。
「三日後に北平から客が来るまでに仕上げて欲しい」
「はい」
私は楽譜から目を上げて頷いた。
総経理は普段の三白眼の面持ちに戻っている。
この人がこんな風に話題にする「客」は、舞女と踊るのが目的で来る男ではない。
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