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冒険者たちの一夜
俺はいわゆる戦士で、勇者候補。
彼女は僧侶ってやつで、いわば回復役。
もうかれこれ三年は魔物退治を続けているが、どっから湧いて出てくるのやら、モンスターたちは減少するどころか増えているような気がする。
この原因を突き止めて根絶やしにすれば、晴れて勇者というわけだ。
「はぁ~、今日も疲れたな…」
猪のシチューをたいらげて、後はテントで寝るだけ。野宿の日は大体、その日の獲物のスープを作って、この綺麗な星空を満喫する。
「そろそろ剣も買い換えないとなぁ」
芝の上に座って武器を手入れしていると、僧侶がやってきて俺の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、ちょっと持たせて」
「いいけど、重いよ?」
ずっしりした剣の柄を渡してみるが、案の定、彼女には重すぎて、切っ先が地面にストン、と刺さってしまう。抜こうと試みるものの、ぐらぐらと動くだけで剣は持ち上がりそうにも無い。
「あ~ぁ、私も男だったらなぁ」
剣を俺に返しながら、僧侶が羨ましそうに俺を見る。なんで?と聞き返すと、群れて羽ばたいて行く魔物の群れを見やりながら、彼女はため息混じりに答えた。
「私、小さい頃の夢が勇者だったの。でも、力も無いし…向いてなかったんだよね。戦士って」
何気に肩を落としながら、心底残念そうに呟く僧侶。パーティーに僧侶がいなければ致命的なんだが、勇者になりたかった彼女にとっては、そんなことを言っても何の慰めにもならなさそうだ。
俺は僧侶の肩を軽く叩いて、言った。
「勇者より強いくせに何言ってんの?」
「え?」
不思議そうに僧侶が振り返る。俺は仰向けに倒れながら声を上げた。
「僧侶の攻撃!女神の笑顔で勇者は9999のダメージ!」
寝転がって星空を仰いで、一言。
「勇者は死亡した」
目を閉じてそう言うと、横で、小さく笑う彼女の声が聞こえた。カサ、と芝生が鳴る音が聞こえたかと思うと、耳元で
「女神のキスで、勇者は生き返った」
と甘い彼女の囁きと共に、頬に彼女の唇が触れた。
目を開けると、流れるような柔らかい髪と、彼女の微笑んだ顔が真横にある。
…この笑顔さえ守れるのなら、いくら血みどろになっても構わない。
などと思っていると、後ろから長いため息が聞こえてきた。
「はあぁ~~~…オレ、パーティー抜けようかな……」
体操座りで満天の星空を眺めていた武道家が、遠い目をしながら更に長いため息を吐いている。
それぞれの平和のため、3人の冒険者の旅はまだまだ続く。
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