波旬の娘

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「お前が、彼岸の渡しなのか?」 異形は、成敗人をそう呼び恐れた。 彼岸と名乗った少女は身動きできぬまま、肯定も否定もせず笑った。 友好の笑みではなく、相対する好敵手に見せるような、不敵な笑みだ。 「面白い。殺すには全く勿体ない」 紅葉は、恐れる様子も見せずに呟く。 相変わらず動かない体を持て余したのか、彼岸が首をわずかに揺らす。額からは汗が流れた。 「今回は退こう。私を成敗したければ探しに来るがよい。また対峙することもあろうがの。その時を楽しみに待っておるぞ」 複雑で計り知れない感情が織り混ざっているようだが、あくまでも優位を保つ紅葉に向け、彼岸が口を開く。 「逃げるのか?」 「ほ、ほ、状況が判らぬようじゃの」 紅葉は優雅に扇を口元に当て、愉悦の微笑みを浮かべているに違いない。 「これは置き土産じゃ」 ふたたび、紅葉が天女のような身軽さで、枝から、さらに高みに飛び跳ねる姿が一瞬見える。
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