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それは突然やってきた。
「あれだよあれ。あのどっろどろしたのがいいんだって」
「はいはい」
普通の日常。
普通の下校。
普通の会話。
そこに異物が混ざる。
「おいおい。コスプレパーティかよ」
黒髪黒目の男子高校生、倉木仁介は呆れ顔を作りながらも、露出が高いコスプレをした女性に目を奪われていた。
そのことに幼馴染みの安藤千佳は気づき、バンと軽く後頭部を叩く。
「痛っ。なにすんだよ」
「目がいやらしかった」
「いやいや、あーゆーのは見られるためにやってるんであって、つまりは俺の行動はあの人を喜ばせるわけで、だからこれはボランティアであって、はいごめんなさい謝るから振り上げた彫刻刀をしまってください」
「ふんっ」
不思議な女性だった。
あんなビキニアーマーにスケスケの羽衣(?)を合わせた格好に違和感がなさすぎる。
なぜか学ラン姿のほうがおかしいような気さえしてくる。
「つーか美人に見惚れるのは男のサガなわけで致し方ないわけでだから彫刻刀でツンツンしないで。腕穴だらけになるから」
「……なにさ。私には見惚れることなんてないくせに」
「いや、ガキんときから一緒の幼馴染みにいちいち見惚れてるのもおかしいだろ」
「そこは聞こえないフリしてよバカー!!」
「痛っ、ちょ、彫刻刀ぉーっ!!」
血が舞うのもいつものこと。
普通の人間よりなぜか回復が早い(トラックに轢かれても、数週間程度で退院するほど)倉木にとっては、かすり傷など怪我の内に入らないので別に構わないのだが。
そこで。
前方のビキニアーマー美女が倉木仁介のほうを見た。
その金髪が。
その碧眼が。
その雰囲気が。
そのすべてが懐かしかった。
(いやいや、あんな美人に会ったことないって。っつーか会ってたら絶対忘れない自信があるね)
そう考えたところで。
金髪碧眼の美人は口を開いた。
「死ね、害虫」
金色の閃光が炸裂した。
それが何かは分からなかったが、それが直撃してはまずいことになるのは本能の部分が理解していた。
その閃光は幼馴染みを狙っていた。だから彼女を突き飛ばした。
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