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ー現在ー
ー工藤カグラサイドー
自分は特別なんだって思ってた時があった
毎日ニュースの種が尽きないほど殺人とか放火とか交通事故とか起きても、自分には何の災厄が降りかからないのはきっと俺に何か特別な能力があるからだと思ってた。
だけどいつからかそれは幻想だって気づいたんだ……
窓の外に映る雲の群。
辛うじて隙間から青空が見えているが、それもいつまで続くだろうか。
予報によるともうじき台風が来るらしい。
秋特有の空っ風が木の葉をかき乱していた。
また、秋が来てしまったな。
そんな詩人のようなことを考えながら、物思いに耽る。
「おい工藤、またボーッとしてるのか!授業に集中しろ!!」
鼓膜に刺さる怒鳴り声。
遠く離れていた意識が教室に引き戻される。
見た所、先生が癇癪を起こしたようだ。
微かな笑い声が周りから聞こえてくる。
いつものこと。こうやって退屈な時、決まって空想に走る癖。
その度、先生からは注意を受けて来た。
小さい頃から変わらない癖……
通学途中の電車の中や学校の休み時間、暇な時は決まって俺はヒーローになっていた。
光速で移動したり、指から火を出したり、切り札を出して相手を圧倒したり。
想い続けていれば、いつかはそれらが現実になると思っていた。
けれど、そうなることはなかった。
平凡な世の中。
ただの繰り返し、鏡写しの毎日。
その中で生きている意味なんかあるのか。
そんなことを思ったりもする。
「いい加減にしろよ、工藤!次同じ真似をしたらそれこそ教室から出て行ってもらうからな!」
教室に怒りを吐露した後、先生は再び板書し始めた。
薄くなりかけた頭が秋の様相と重なって見える。
このぶんだと、あと少しで冬が来そうだな。
心の中で皮肉を投げかけつつ、三度外の景色を見る。
何、また直ぐに一年が経つさ。諸行無常とはよく行ったものだ。変わりばえのない変化に何の意味があるのだろうか。
それこそ…
またしても空想に入りかけようとしたその時…
『ブゥゥゥーン。』
振動するスマートフォンがそれを邪魔した。
仕方なしにポケットに手を入れる。
退屈な授業。やることがないのなら、携帯でもいじることしよう。
取り出すと、画面の下にメール受信と表示されていた。
慣れた手つきでスマートフォンのロックを解除し、メールを開く。
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