仲間

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対照的に、眉一つ動かさずに進む松原。 その度胸と平常心を保つ芯の太さは流石としか言いようがない。 どちらも、俺には致命的に欠けているものだ。 高まっていく緊迫感。 まるで、このまま永遠に歩き続けなければいけないのかと、妄言が頭を過る。 長い。普段から思っている長さより遥かに長い。 元よりうちの学校は教室からほかの教室までの距離が結構ある。 何度移動教室の時に遅刻しそうになったことか。 休み時間の終わり際には何人もの生徒が廊下を疾走するのが日常茶飯事だった。 恐怖感はあるものの、未だ敵は現れず。 先刻の連続した邂逅は余程運の悪い出来事だったらしい。 案外平和な無人の校舎に、少しずつ心が落ち着きを取り戻していく。 慣れて来たせいか、お互いに小話を交えながらの進行となった。 圧迫感はあるものの、話は弾む。 他愛のない与太話。 向こうの世界では、至極当たり前にできていたことが、ここではとても貴重に感じる。 話をはじめると時は早く進むもので、気がつけば目的地の直ぐそばまで来ていた。 「やっと着いた。」 「史上最恐の移動教室だったな。」 遂に辿り着いた校舎の端。 左手には階段があり、右を見ると1組と2組の教室が並んでいる。 そのうちの奥の教室が俺たちのクラス、1組の部屋。 引き続き松原を先頭に教室へ歩みを進める。 先ほどまでとは違い、恐怖はもう感じなかった。 後少しで教室に着くという高揚が身を包む。 実は結構みんな集まっているんじゃないか、そんな期待に胸を躍らせつつ歩みを進める。 教室に入ると同時に歓迎を受ける…そんな情景を目に浮かべながら。 遂に辿り着いた教室の前。 松原が手前の扉付近で立ち止まり、閉まっている扉にそっと手をかける。 ふと、不穏な予感が胸に刺さった。 おかしい。やけに静かだ。 もし人が集まっているなら、もっと話し声が聞こえていいはずなのに。 人の肉声どころか物音一つ聞こえない。 人がいないのか? そんなはずはない…
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