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冷たい土の感触が、荒んだ彼の心を逆撫でする。
「数が多いな。
ならばこちらも数で応戦するまで。
屍達よ、俺の手となり足となり、奴らを血祭りに上げろ!」
そう言い、地面に右手を押し当てる少年。
能力は人それぞれ。千差万別。
が、彼の能力は一際特殊であった。
突然、平原を突き破るようにして、無数の腕が茜色の空へと伸びる。
腕、そう表現するのは語弊があるかもしれない。
なぜなら、その腕腕には、肉が張り付いていないからだ。
亡者達の復活。
魂無き骨の群衆が地面から湧き上がっていく。
さながら地獄のように。
ボロボロの髑髏を頭に据え、立ち上がる怨霊達。
間も無く陽は、山に隠れ、闇が訪れる。
「そうはさせないねぇ。『夏草や兵どもが夢の跡』」
歌を風情あり気に詠む少年が一人。
彼は、一風変わっており、着物を体に纏わせている。
そして勿論、この風変わりな彼もまた、能力者。
彼の歌は、能力によって世界に還元される。
崩れ去っていく過去の兵士。
在るべき地へと還っていく。
亡者が蘇生した時と同じく、あっという間に大地は平穏を取り戻した。
「『菜の花や月は東に日は西に』。」
夕陽に連れられるように、山から体を起こす満月。
戦地を照らす淡い白光。
まるで、彼らの宿命を悲しく見届けようとしているように。
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