一章 辺境の街

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   鳥の蒸し焼きにかぶり付きその質素な味を堪能しながら大通りを歩く。駆け回る子供の姿があちらこちらにあるが、ゆっくり歩く老人の姿はほとんどない。洒落た格好をしている若者よりも武装した青年が遥かに多い。  男女比も男の方が高い気がした。特に若い女性──街人らしい姿の女性は少なく、だが革鎧を身に纏った逞しい女性はちらほらと見かけられた。  まさしく力が全て。道の真ん中を堂々と歩く体格のいい男と、道の端による街人やまだ幼さの残る冒険者。全てが実力によって決まる──この街に初めて足を踏み入れた者でも一目見ればわかるだろう。  リューティスは自身の気配を薄めて人混みに紛れて歩いた。絡まれるのは面倒であるし、その対処に時間を取られるのも実に馬鹿馬鹿しい。街の真ん中を歩く男のギルドランクはA程度であり、絡まれてもこちらが怪我を負うことすらないが、面倒事はできるかぎり避けたい。  道の真ん中を歩いていた男の前方から、一人の若い女性が歩いてきた。金属製の防具を身に付け、槍を背負っている。装備からしても、身のこなしやその身に宿る魔力からしても、男より上位の実力の持ち主である。  男は女性を睨もうとし、しかしその相手が誰なのか理解したのか、慌てて道を譲って頭を下げた。女性は男を一瞥しただけで何も言わずに立ち去る。 「ナナリー様だ……」 「今日もお美しいな」 「一回でいいから話してみたいなぁ……」 「お前なんか目も向けてもらえないだろうがな」  周囲から聞こえる声。あの女性はこの辺りでは有名なのだろう。 .
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