一章 辺境の街

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   立派な石造りの防壁と頑強そうな門。その前に列を作る人々は数えずとも百を越えていると推測できるほどだった。  この辺り一の規模を誇る街であるカナンは今日も人が溢れていた。馬車の並ぶ列には村と街とを繋ぐみすぼらしいが頑丈な馬車が列を成し、中には行商人の荷馬車や小金持ちの私馬車がちらほらと見える。人が並ぶ列には馬や四足魔物に乗った者もいた。  しかしながらリューティスは徒歩。街道に入る前にセネルの背から降りて、彼にはかえってもらったのである。当然のことであるが、彼に乗っていては目立つのだ。 「にぃさん、旅人かい?」  リューティスの前にいた女性が振り返った。四十過ぎであろう女性だ。その身体つきは逞しいが戦士には見えず、むしろどこにでもいる農民に見える。だが安物らしき革製の防具を身に付け、腰のベルトには短剣をさしているその姿は、冒険者に見えないこともなかった。 「……えぇ、旅に暮らす者です。貴女は農業に携わる方でしょうか」 「あれ、よくわかったねぇ。あんたみたいな旅人にはよく冒険者に間違えられるんだけど」 「短剣使いにしては腕が鍛えられているようでしたから」  彼女の腕は重い物を持つための腕であって、素早く短剣を振るうための腕ではない。ゆえに冒険者に見えないこともないが、彼女が農民であろうと推測したのである。  結果、その推測は当たっていたようで、彼女は楽しげにけらけらと笑っていた。 .
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