二十九章 刹那の逢瀬

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   翌朝、リューティスが目覚めたのは、とうに日が昇った頃であった。ジェフとレイガンはもう部屋におらず、寝過ごしたのだとわかる。  しかし、二人の代わりに別の人物が、リューティスの枕元に置かれた椅子に座っていた。 「あ、おはようございます」  目を開けた瞬間、丁度視線があった彼女に驚いて勢いよく身体を起こした。──なぜ彼女がここにいるのだろうか。それになぜ彼女が部屋に入ってきたことに気がつかなかったのだろうか。  リューティスは気配に非常に敏感である。寝ている間に人に接近されれば目が覚める。だが、状況から考えるに彼女が枕元に来ても目が覚めなかったのだろう。 「お、おはよう、ございます……」  学園はどうしたのか、なぜ中央の国に帰っていないのか。沸き起こった疑問を口にする前に彼女──想いの人であるユリアス・アクスレイドに笑顔で挨拶をされて、そんな疑問は吹き飛んでしまう。 「お二人はもう食堂に行きましたよ」 「そ、そうですか……」  日々の習慣に従って着替えようとしたが、服の裾に手をかけたところで彼女がいることを思い出す。彼女に着替えを見られるのは恥ずかしい。 「……あの、着替えたいのですが」 「あっ、ごめんなさい!」  くるりと背を向けた彼女に安堵の息を吐き出し、“ボックス”から取り出した服に手早く着替えた。そしてブーツをはく。 「朝食はもう取りましたか?」 「はい!」  恐る恐るといった様子でこちらに向き直った彼女はリューティスの着替えが終わっているのを見てほっとしたようだった。 .
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