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「僕は食堂に行きますが……、ユリはどうなさいますか」
「ついていきます!」
ユリアスは立ち上がったリューティスの手を取り、ふわりと笑んだのだった。
食堂は普段よりもすいていた。冒険者の客が多いこの宿の食堂は、早朝に込み合う。この時間にゆっくりと起き出す者は少ない。
ちらちらとこちらを見る視線を感じる。ドレスではないが、明らかに質のいいワンピースを着たユリアスは平民には見えない。冒険者ばかりの宿とは場違いなユリアスの存在に周囲の視線は当然のものである。
レイガンとジェフの魔力を見つけてそちらに歩み寄ると、こちらに気がついた二人は口々に挨拶を告げてきた。彼らの隣の椅子に腰を下ろしつつ、挨拶を返す。
「仲がよろしいことで」
にやにやと笑ったレイガンにユリアスと手を繋いでいたことを思い出したリューティスは赤面した。しかし、リューティスの隣に座ったユリアスはその手を離そうとはしない。
「その綺麗な嬢ちゃんが恋人か? ……昨日の子、だよな」
後半は声量を落とし、囁かれるように聞かれた。リューティスが首肯するとユリアスが口を開く。
「ユリアス・アクスレイドといいます」
「アクスレイド……? え、待て、まさかお前の恋人、公爵令嬢なのか!?」
ぎょっとした顔でユリアスを見たレイガンだが、ジェフは首を捻っている。レイガンは中央の国の生まれで公爵家であり五大貴族であるアクスレイド家を名前だけでも知っているだろうが、西の国の生まれであるジェフは他国の貴族であるアクスレイド家に聞き覚えがないのだろう。
「はい、降嫁なさったアリアンヌ王女──先々代王妹殿下の血を引く者です」
呆然とするレイガンに事態が飲み込めたらしいジェフも目を見開いてユリアスを見ていた。
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