二十九章 刹那の逢瀬

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  「恋人が貴族だって聞いてたが、……公爵令嬢だとは思わんかったぞ流石に」  深々と息を吐いたレイガンは呆れた顔でリューティスの頭を撫でた。 「まあ詳しい話は聞かん。さっさと飯を食え」  メニュー表を手渡され、朝から濃い料理が書かれたその中から比較的肉の少ないメニューを選んだのだった。  朝食を終えるや否や、レイガンとジェフによってリューティスはユリアスと共に外へ出された。それが彼らなりの気遣いだと気がついて、血の集まった頬に手の甲を当ててどうにか熱を冷ます。 「……どこに行きますか?」 「リュース君と一緒ならどこへでも」  ふわりと笑んだ彼女から目をそらす。彼女への恋慕の情を理解した時から、彼女を直視できなくなっていた。目が合えば胸が高鳴り、沸き上がる感情を持てあます。  リューティスはユリアスの手を引いて行き先も決めずに歩き出した。  物珍しい形をした家々は見ているだけで楽しいのだが、ユリアスがそばにいるとどうしても意識が彼女に向いてしまい、風景などどうでもよくなってしまう。 「あ! あの服可愛い!!」  店前の人形に着せられた服を指差し輝く笑顔で振り返った彼女から、赤らんだ顔を背ける。 「……ふふ、リュース君顔真っ赤ですよ」  ユリアスは繋いでいない方の手でリューティスの頬をつつき、からかうように笑った。その手から逃れることも向けてしまった目をそらすこともできずされるがままになっていると、楽しげな彼女は身を翻しリューティスの手を引いて店に入った。 .
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