二十九章 刹那の逢瀬

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   受け取ろうとしたが口元にそれを差し出されて、そのままかぶりつけという意味なのだと理解する。  気恥ずかしいが期待のこもった視線を向けてくるユリアスを拒否することはできず、観念して隅の方をかじった。 「おいしいですか?」  笑顔のユリアスに頷いてみせたものの、甘いはずのその味は緊張のせいで何も感じられず、咀嚼して呑み込むので精一杯だった。  甘味を食べ終えた彼女とまた並んで歩く。目的もない散策であるが、彼女が隣にいるというだけでなぜこんなにも楽しく感じられるのだろうか。 「髪結いだ……」  ふと小さな呟きを溢したユリアスを見下ろす。彼女の見つめる先には櫛を手に女性の髪を結う髪結い師の姿があった。  平民の女性のものにしては長い髪の毛があっという間に結い上げられていく。 「……はいる?」  今、ユリアスの髪は簡素に二つに結われているだけだ。気になるならばと訊ねると、目を輝かせた彼女は大きくうなずいた。  開け放たれた出入り口をくぐり、店内を見回す。髪結い師の数は三人。一人は手が空いているようで、ユリアスを見るとすぐに歩み寄ってきた。 「いらっしゃいませ」 「あの、髪を結ってほしいんですけど……」 「はい、どうぞこちらにいらしてください」  ユリアスは髪結い師に導かれて空いている椅子に座った。 「可愛らしいワンピースですね、服に合うようにハーフアップにでもしましょうか?」 「はい、それでお願いします」 「わかりました」  髪結い師は笑顔で頷いた。リューティスは壁際に置かれていた椅子に座って、髪結いの様子を眺める。 .
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