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難しい顔をしていた彼女はなにやら一つ頷くと、リューティスの手を引っ張った。立てということだろうか。
椅子から立ち上がると今度はユリアスを見下ろす状態になる。
「……少しだけなら」
なぜか不機嫌な顔で髪結い師に答えたユリアスの手に引かれて、リューティスは銅製の鏡の前の椅子に座らされた。
ユリアスに決定権があることに不満はない。そもそもリューティスはユリアスに頼まれれば断ることができない。否、断りたくないが正しいのだろう。
もし、断ったことで悲しい思いをさせてしまったら、一生後悔し続けるに違いないのだ。彼女の泣き顔はできれば見たくない。
だがもしそれが彼女の命に関わるようなことであったならば、リューティスは躊躇もせずに拒否する。どんな頼みであれ、彼女の命の方が優先だ。
「ありがとうございます」
髪結い師は輝かんばかりの満面の笑みを浮かべた。何が嬉しいのかわからないが、その笑みにユリアスが渋い表情をしたのが見えて首をかしげる。不快な思いをさせてしまったのだろうか。
髪結い師は櫛を取り出してリューティスの髪を梳る。ユリアスが離れて椅子に座る気配を感じた。
「綺麗な御髪ですねぇ。全く傷んでいないようですが地毛ですか?」
「……えぇ、魔力色変ですが」
「まあ、そうでしたか」
西の国では髪色を変えること──つまり染毛が流行りはじめていると聞く。染毛料は魔法薬であり安価な薬ではないのだが、それでも最近では平民の一部でも行っている者がいるらしい。
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