二十九章 刹那の逢瀬

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   これに対し冒険者ギルドは一つの懸念を抱いている。すなわち、犯罪に利用されるのではなかろうかという不安だ。  冒険者ギルドカードには顔写真がつけられている。これは簡易的な本人確認によく利用されており、その際、髪色や目の色は重要な確認事項である。  その髪色が染料で変えられていたとしても、写真ならばそう問題はない。顔立ちで本人かどうかわかるからだ。  だが、もしそれが手書きの似顔絵の指名手配書だったならば、どうであろうか。髪色が異なれば指名手配されている人物ではないと一目見て認識し、疑って意識を向ける者は少ないはずだ。  これは、もとより毛髪用染料が開発されたのが五年ほど前と最近であることが原因である。それまで髪色というのは変えようないものだったのだ。 「髪型どうなさいます?」 「……彼女の隣を歩いていておかしくないようにお願いします」  常々思っていることをぽつりと口にする。可愛らしい姿で隣を歩く彼女に対し、普段と変わらぬ一見して飾り気のない黒一色の服装で歩くリューティスは、周りからどう見られているのだろうか。  視線は気になるが負の感情を向けられることに慣れているリューティスとは異なり、ユリアスはそのような視線にさらされることに慣れていないだろう。彼女は公爵の令嬢だ。彼女へ表立って負の感情を見せる者は少ないはずである。  彼女とは不釣り合いな格好で隣を歩くのは、彼女のことを思えば望ましくない状況だ。とはいえリューティスには服に関する知識はほとんどなく、今朝は起きたら目の前にユリアスがいたため服のことなど考える余裕もなく普段と同じ服を着たのである。 .
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