二十九章 刹那の逢瀬

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   鏡越しに髪結い師が目を丸くしたのが見えた。しかし、直後に彼女は微笑んだ。 「承知しました。格好よく仕上げますね」 「お願いします」  髪結い師の手際はよかった。ユリアスの髪が結われていくのを見ていた時も感じたが、まだ若いにもかかわらず手慣れた様子である。  リューティスの髪は前髪も含めて右側が編み込まれていった。ユリアスが「少しだけ」といったためか、編み込みは細かくではなく大きく、だが丁寧に一つ一つ編まれていく。 「こんな感じでどうですか? 慣れていらっしゃらないようなのであまり強く引っ張っていません」  編み込みは右眉の上から項(うなじ)の上を通って左の耳の下へと流されていた。ここ数ヵ月でまた伸びた髪は肩甲骨につくかつかないか程度まであったが、それらも一緒に黒い髪紐でくくられて左肩から胸へ垂らされている。  リューティスは立ち上がってユリアスを見た。彼女はエメラルドグリーンの瞳を輝かせて駆け寄ってくる。 「似合ってますよ! 格好いいっ」  心からだとわかる気持ちのこもった言葉に、照れを隠せず目を反らしたのだった。  まだ日暮まで時間があるが、もうじき四時を回る。リューティスは日が暮れる前にユリアスをあの屋敷まで送り届けるつもりだった。  昨夜、殿下を屋敷に送った後、襲撃のほとんどをデルタと共に捉えて雇い主に関する情報を手に入れたが、証拠がまだ足りずに黒幕は捕まえられずにいる。 .
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