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「旅人のにぃさん、名前は? あたいはメォウ」
それは西の国らしい発音の名だった。もしかしたら、彼女は西の国の出なのかもしれない。
「リュースと申します」
「リュース、ね。中央の国の名前だね。あたいは西の国の生まれでね、呼びづらかったらメオでいいよ」
西の国は千年程前まで中央の国とは異なる言語を使用していた。今でも名付けはそちらの言語を元にされることが多く、『メォウ』というのもその一例であろう。
「メォウ、さんですね」
「あれまぁ、こっち来て一発で発音できた人初めてだよ!」
大抵『ミャウ』って呼ばれちまうんだ、とメォウは笑う。
「西の国に行ったことは何度かありますし、あちらに知り合いもいますから、多少は発音しなれているのかもしれません」
「へぇ、長く旅をしているのか。若く見えるけど実はそうでもないのかい?」
深くかぶったフードの中を覗いてこようとするメォウから一歩退き、曖昧に笑う。リューティスはまだ若いというより人によっては幼いに分類する者もいる年齢だ。これは成人の定義のない中央の国ならではの考えであり、北の国ではもう立派な大人扱いをされる年齢である。
「……旅をしはじめてからまだ長くはありませんが、旅をする前に何度か」
「わざわざあの国にかい? 変わりモンだねぇ」
魔導機が発達したあの国はリューティスからすればとても興味深い国であるが、彼女からしたらそうではないらしかった。
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