一章 辺境の街

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   そのうち順番が回ってきて、ギルドカードを提示するとすんなり通された。フードを外す間もなく、通行証である札も渡されず、税金を払って終わりである。列が長いわりに順番が回ってくるまでの時間が妙に短いと思いきや、確認検査が甘いのだ。  犯罪の有無は一応確認しているようであったが、これほどまでに短い確認検査は初めてである。 「どうかしたのかい?」  先に門を潜って自分を待っていてくれたらしいメォウに訊ねられ、その疑問をぶつけてみた。 「この辺りはみんな実力主義者だからねぇ……。強けりゃそれが正義なのさ。領地主様がSSランク冒険者だからそうなるのも自然な流れさね。弱い荒くれ者は周囲に制裁される。強い荒くれ者は弱い荒くれ者をのして従えて派閥を作って他と対立して程度よく吊り合いがとれるのさ」 「……つまりそれなりに平和が保たれているから問題ない、と?」 「そういうこと」  軽度の犯罪者でも従えてしまう力を持つからこそ、門での確認検査が甘くなるのだということだ。流石に大量虐殺犯を入れることはないだろうが、恐喝・窃盗・器物破損くらいは素知らぬふりで通されそうである。 「通行証がないのはなぜでしょうか?」 「そんなの、金をとるために決まってるじゃないか。有名になれば金を払わんくても通れるようになるよ」  つまりすべては実力。村や街が多いがゆえに強い魔物が目撃されればすぐに討伐される国の中心部付近とはことなり、辺境の地には強い魔物が蔓延っている。実力主義になるのもおかしくない。 「危険区域の街らしい考え方ですね……」  危険区域とは上級以上の魔物の群れが頻繁に見かけられる地域のことを指す言葉だ。 「こんな農民のばばあでもある程度戦えんとやってけないのさ」  メォウは腰の短剣を叩いて肩をすくめた。 「さてリュース、出会った記念に宿を紹介してやろう。あたいの娘が嫁入りした先だがね」  なんともちゃっかりした女性である。リューティスはその提案をはね除けることはせず、背を向けて歩き出した彼女のあとを追ったのだった。 .
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