第8章

2/27
前へ
/463ページ
次へ
「……さ…………ぶさ……。」 遠くの方で声がしたので、重たい瞼をなんとか上げてみると、目の前に和海さんの顔が飛び込んできた。 「うわあぁぁ?!」 朝一で和海さんの顔を見るとは思っていなかったせいで、思わず変な声が出てしまう。 すると、和海さんはニヤッと笑いながら僕の着物を遠くの方に放り投げた。 「ちょっと!なにするんですか?!」 慌てて取りに行こうと思ったけれど、裸で布団から出るわけにも行かず、僕は黙って和海さんを睨んだ。 でもそんなことを気にする和海さんではない。 「おはようのキスは?」 ほら、平気でこういうことを言う。 「……正気ですか?」 「素っ裸で服を取りに行きたいか?」 「ッ!さ、最悪……。」 「なんとでも言え。」 和海さんはニヤニヤ笑いながら僕の顎を掬い上げ、唇を奪ってきた。 とびっきり甘い笑顔で僕を見つめる和海さんは、起き抜けの僕にはちょっと眩しすぎる。 「……服、取ってください。」 「断る。」 「はい?!」 「こっちを着ろ。」 和海さんはそう言って、洋服を僕に押し付けた。 と言うか、別の服を持っているならはじめからそうと言ってくれればいいのに……。 とにかくシャツに腕を通しながら、僕は和海さんに尋ねた。 「なんで洋服なんです?どこかに行くんですか?」 「いや、人が来る。」 「えっと……どなたです?」 「お前の姉貴。」 「え!?姉って……竹子姉様ですか?」 「ああ、それ。」 「な、なんで?!いきなり?」 「いや、2週間前くらいに連絡が来ていた。」 「……今初めて聞いたんですが。」 「当たり前だろう。今初めて言ったんだから。」 「なんでそんな大事なことをすぐ言わないんですか……。」 「他に大仕事があったせいで忘れてた。」 「何時ごろ来るんですか?」 「午後三時。」 それならまだ余裕があるはずだ。 ほっと胸を撫で下ろして枕元の時計を見た僕は、またしても変な声を出してしまった。 「ええぇぇ?!なんで?!」 朝だと思っていた僕だったが、時計盤を走る針は、二時半あたりを指していた。
/463ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1947人が本棚に入れています
本棚に追加