第8章

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さっきの微妙な空気はなんだったんだろう……? いや、でも考えてみれば二人とも大人だし、僕みたいに思ってることをそのまま顔に出したりはしない。 ましてや蘭之助さんは役者だ。 表情を作ることなんて容易いはず。 だから実のところ、松本さんと蘭之助さんは何か引っ掛かることがあるに違いない。 「英、薬のこと和海から聞いたか?」 蘭之助さんが切り出した。 僕は昨晩のことを思い出して顔が熱くなるのを感じ、いそいで顔を伏せる。 「え、ええ!中身間違ってたんですよね?」 「ああ。おめェが薬盛る前に寝ちまったって聞いてほっとしたよ。俺が連れ回したせいで疲れたんだろうな。」 「そ、そうかな?アハハー……。」 「もしあの薬飲んだらとんでもねェことになってた。」 とんでもないこと……なりましたね。 昨晩の醜態を思い出すと、舌を噛み千切りたくなる。 「結構強い薬だったろ?」 「へ?!あ、そ、そうですね!」 僕がそう答えた瞬間、蘭之助さんの目が鋭くなった。 うわっ!!しまった!! 少し遅れて、僕は自分が答えを間違ったことに気がついた。 蘭之助さんはかまをかけていたのだ。 僕はまんまとその罠に引っ掛かり、自分があの薬を飲んだことを自白してしまった。 「やっぱり、おめェ飲んだな?」 「い、いえ!まさか……アハハ、アハハ……。」 どうしよう! 僕は嘘をつくのが下手だっていうのに! 松本さんはサンドイッチを作る手を止め、言いにくそうに呟いた。 「原さん、今朝はいやに機嫌が良かったんです。それに妙にツヤツヤしていましたし……。」 なるほど、和海さんの言う通り松本さんは天然ではあるけど鈍くない。 前々から思ってはいたけど、相変わらず細やかな観察眼を持っている。 もう言い逃れや誤魔化しは利かないはずだ……。 観念して、蘭之助さんと松本さんを交互に見つめると、二人はまたしても顔を見合せ、それから深いため息をついた。 「やっぱりか……。」 蘭之助さんはぼそっと呟き、頭を抱える。 「もとはといえば、俺が間違って薬を渡しちまったせいだ。なんて詫びりャいいか……。」 「いえ!僕が飲んでしまったのは不慮の事故ですから!」 「でもそのせいで和海に滅茶苦茶ヤられたろう。」 「へ?!あ、え?!」 「俺ァ昨晩ここに泊まったんだよ。和海の部屋と同じ二階の客間でな。」 「ちなみに私は徹夜でした。」
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