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気まずそうな顔の大人二人を前に、僕は恥ずかしくて泣きたくなってきた。
蘭之助さんは帯に差していた扇を引き抜き、僕を手招きする。
話を聞くのが怖くなりながらも蘭之助さんの方へ顔を寄せると、蘭之助さんは広げた扇で口元を隠して呟いた。
「聞く気はなかったんだぜ?でもおめェの声が漏れてきててな。」
「う、嘘?!」
さ、最悪だ……!!
「寝言って線もなくはねェかと思ったが……さっきの反応じゃ、寝言ってわけじゃなさそうだ。ほんと……俺ァ……。」
まずい。
面倒見がよくて、責任感が強い蘭之助さんだ。
和海さんも言ってたけど、舌を噛みかねない。
「蘭之助さん、あの、この際だから言いますけど、僕はあの薬に感謝してるんです。」
「はァ?!おめェまで和海の仲間入りか?!」
蘭之助さんは、扇を取り落とし、目を見開く。
「ちがいます!僕は和海さんみたいな変態ではありません!!」
「だ、だよなァ?流石の俺もびっくりしちまったぜ……。どういう意味だ?」
「あ、ある意味……あの薬のお陰で、素直に言いたいことを言えました。たぶん普段の僕では言えなかったことです。だから……蘭之助さんは何も悪くありません。お願いだから気に病まないでくれませんか?」
「英……おめェ……。」
蘭之助さんはじっと僕を見ていたが、唐突に僕を抱き寄せた。
白粉と香の匂いがする蘭之助さんの襟元に顔を埋める形になった僕は、相手が男の人だと分かっているのに緊張してしまう。
なにせ蘭之助さんは「東亰で一番の美女」なのだから……。
それにしても、蘭之助さんはなかなか体を離してくれない。
「ら、蘭之助さん?」
「なァ、英。」
頭の上から声が聞こえてきたので、僕は顔を上げようとした。
でも蘭之助さんの結いこぼした後れ毛が鼻の頭を撫でてくすぐったいので、しかたなく、元のままの体勢に戻る。
「おめェは本当に可愛いやつだな。」
蘭之助さんはいやにしみじみと呟いた。
「ぼ、僕男ですから、可愛いって言われても……。」
「見た目の愛らしさってことじゃねェんだ。俺ァおめェって人間が可愛くて仕方ねェのサ。」
「蘭之助さん……。」
少しだけ蘭之助さんの腕の力が緩んだので顔を上げると、柔らかく笑う蘭之助さんと目が合う。
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