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そして、次に僕の視界に入ったのは、満面の笑みを浮かべて食堂の入り口に立つ和海さんと、顔面蒼白の竹子姉様だった。
「うわぁ!?かか和海さん?!姉様?!」
慌てて蘭之助さんから離れようとした僕だったが、かえって強く抱き締められ、身動きが取れなくなる。
和海さんは変わらず笑顔だったけれど、目だけは全く笑ってない。
「おい、お蘭。お前何してるんだ?」
凄味のある声色に、僕の肩はびくっと跳ねた。
ところが、蘭之助さんは全く気にする様子がない。
それどころか、クスッと色っぽい笑みをこぼしながら言う。
「嫌がらせ。」
「英に対してか?」
「まァ、憎らしいことお言いでないよォ。無論、お前様 “達” にサ。」
達っていうことは、竹子姉様も含まれている?
でもなんで……。
「今さらこの子に何の用か知らないが、一度見捨てた身内に会いに来る時は、大抵ろくな話を持ってくるもの……。どういうつもりかェ?」
ゾクッとするような冷たい声に、僕は恐々と蘭之助さんの表情をうかがってみた。
下から見上げた蘭之助さんの横顔は、その声よりも冷たく凍りついている。
まるで氷の女王様のようだ。
そんな蘭之助さんに見つめられ、竹子姉様は怯えた目で後ずさった。
その様子を静観していた和海さんだったが、おもむろにこちらに近づいてくると、蘭之助さんの腕の中から僕を引っ張り出した。
「仮にそうだとしても、それは柳苑寺家の問題だ。俺やお前のような部外者が口を挟むことじゃない。」
和海さんのこの言葉は蘭之助さんを納得させるには不十分だったようで、蘭之助さんは切れ長の目で竹子姉様を一瞥する。
なんだか汚らわしいものでも見るかのような、普段の蘭之助さんとは全く違う視線に、僕は怖くなる。
蘭之助さんにこんな一面があることを、僕は全然知らなかった。
しかし幼なじみの和海さんはこんな表情を蘭之助さんがすることを当然知っているのだろう。
別段焦るでもなく、平然と続けた。
「それに、俺は英を信じている。こいつは見た目よりもずっと強い。」
この言葉は蘭之助さんにも効果があった。
いや、蘭之助さんだけじゃない。
松本さんや竹子姉様の表情も変わったし、なにより僕自身に対して効果大だった。
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