第8章

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僕ら二人は鼻の奥がツンとするのを誤魔化すみたいに、松本さんが運んできてくれたサンドイッチやケーキを口に運んだ。 「このケーキ、とても美味しいけれどあの秘書の方が作ったのかしら……。」 流石の松本さんもケーキまでは…… いや、でもあの松本さんだし、ケーキを作るくらい容易いかもしれない。 僕が曖昧に肩を竦めると、竹子姉様は苦笑いした。 「そんなわないわね。男の方だもの、お台所に入るはずないわ。」 いえ、ここの屋敷の男性は構わず台所に入るんですよ、姉様。 なんて言っても姉様を混乱させるだけなので、僕はあえて何も言わなかった。 その代わり、姉様が訪ねてきた理由を聞いてみることにした。 「ところで竹子姉様は何故わざわざいらしたんですか?それもお一人で。」 一瞬、竹子姉様の顔が強張る。 それほど変な質問ではなかったはずなのに、なにが気にさわったのだろう。 「姉様……?」 「わたくし……家出してきたの。」 「はい?!い、家出?!」 「ええ……。今日はバイオリンのお稽古の日だったから、お父様やお母様にはお稽古に行きますと言って、ここに来たの。」 「じょ、冗談……ではないんですね?」 「冗談なんかじゃないわ。」 竹子姉様が言い出したとんでもないことに、僕は頭がずきずきと痛んできた。 「あの……姉様、何故そんなこと……。」 姉様の大きな目に涙がみるみる溜まっていく。 「姉様?!ど、どうしたんです?!」 「わたくし……結婚なんてしたくない!」
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