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僕ら二人は鼻の奥がツンとするのを誤魔化すみたいに、松本さんが運んできてくれたサンドイッチやケーキを口に運んだ。
「このケーキ、とても美味しいけれどあの秘書の方が作ったのかしら……。」
流石の松本さんもケーキまでは……
いや、でもあの松本さんだし、ケーキを作るくらい容易いかもしれない。
僕が曖昧に肩を竦めると、竹子姉様は苦笑いした。
「そんなわないわね。男の方だもの、お台所に入るはずないわ。」
いえ、ここの屋敷の男性は構わず台所に入るんですよ、姉様。
なんて言っても姉様を混乱させるだけなので、僕はあえて何も言わなかった。
その代わり、姉様が訪ねてきた理由を聞いてみることにした。
「ところで竹子姉様は何故わざわざいらしたんですか?それもお一人で。」
一瞬、竹子姉様の顔が強張る。
それほど変な質問ではなかったはずなのに、なにが気にさわったのだろう。
「姉様……?」
「わたくし……家出してきたの。」
「はい?!い、家出?!」
「ええ……。今日はバイオリンのお稽古の日だったから、お父様やお母様にはお稽古に行きますと言って、ここに来たの。」
「じょ、冗談……ではないんですね?」
「冗談なんかじゃないわ。」
竹子姉様が言い出したとんでもないことに、僕は頭がずきずきと痛んできた。
「あの……姉様、何故そんなこと……。」
姉様の大きな目に涙がみるみる溜まっていく。
「姉様?!ど、どうしたんです?!」
「わたくし……結婚なんてしたくない!」
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