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お姫様育ちの竹子姉様は、たぶんこんな言葉遣いで話しかけられたことがないはずだ。
案の定、なんと答えていいのか分からないようで、目を白黒させていた。
姉様を助けないと……!
でもその前に松本さんに離してもらわなくちゃ
「松本さん、離していただけませんか?」
あれ?
松本さんの目……なんだか怒っている……?
口角がきゅっと持ち上がっているので笑っていると思ったけれど、垂れ目がちな目は笑っていない。
そのせいか、怒っているように見えた。
「ま、松本さん……?」
見間違いかもしれないと思い、そっと様子を伺うと、松本さんはぽつりと呟いた。
「私も蘭之助さんのように素直に思っていることを口に出せればいいんですが。何分、そういうことができない性格でして。」
「あの……気のせいかもしれませんけど…………松本さん、怒ってます?」
「ええ、怒っていますよ。」
あっさり認められてしまい、僕は言葉を失う。
松本さんの手は僕からゆっくり離れていった。
何に怒っているのか聞きたかったのに、松本さんが蘭之助さんの方を向いてしまったので、結局聞くことができなかった。
松本さんは蘭之助さんの腕を掴む。
「蘭之助さん、それくらいにしてあげてください。」
「あァ?口出ししやがる気か?」
「英君が困っています。」
「俺ァ英のためを思ってだな!」
「本当に英君のためを思っているなら、冷静になってください。」
「それは……。」
「いくら蘭之助さんとはいえ、英君を困らせるというなら、私は貴方を許しません。」
「優男……おめェ……。」
こんな松本さん、初めて見る。
柔らかな表情しか見せなかった松本さんが、別人みたいに厳しい顔をしていた。
「ッチ……興醒めだ。」
蘭之助さんは松本さんの手を振り払い、不機嫌そうに溜め息をつく。
僕は今にも倒れそうな竹子姉様に駆け寄り、急いで椅子に座らせた。
「た、竹子姉様!」
「大丈夫よ……。それに、八代目の言う通りだもの……。」
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