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相変わらず、装飾がごてごてした馬車……
これは原和海の趣味なのかな
「お前、洋服着ると印象が変わるな。」
唐突に話しかけられ、僕は返答に困る。
「そうですか?」
「結構似合ってるよ。」
「あ、ありがとうございます……。原さんもお似合いですよ。」
わざとらしく社交辞令を付け足すと、原和海は窓の外を見ながらぼんやりと呟いた。
「着慣れてるからな。」
どうやら僕とそれ以上会話をする気はないらしい。
彼は腕を組んで外を眺め、こちらを向かなかった。
少し気まずい時間が流れる。
僕はカフスボタンを指でいじりながら、窓の外の風景が次第に見慣れたものになっていくのを黙って眺めた。
「家に帰れるのは嬉しいか?」
また唐突に話しかけられる。
「嬉しいですよ。」
「そうか。」
そしてまた唐突に会話が終わる。
気のせいかもしれないけど、今日の原和海はちょっと変だ。
疲れているのかな?
それとも、緊張……なわけないか。
間もなく馬車が止まったので、僕は考えるのをやめて、実家に帰ってきた喜びを噛み締めた。
もっとも、この家は人の手に渡ってしまうわけだけど……。
「はなちゃん!」
この声竹子姉様だ!
僕は玄関からゆっくりと出てきた二歳年上の竹子姉様に手を振る。
僕の後ろでは原和海が噴き出していた。
「なにか?」
ムッとして尋ねると、原和海は声に出さず口の動きだけで「はなちゃん」と言った。
た、たしかに子どもっぽい呼ばれ方だけど、なにも笑うことはない。
本っっっ当に失礼な人だ。
竹子姉様は原和海を見ると、顔を強ばらせ、ぎこちなく頭を下げた。
「ごきげんよう、竹子と申します。父が待っておりますわ。こちらにどうぞ……。」
「恐れ入ります。」
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