第2章

9/24
前へ
/463ページ
次へ
紳士然とした原和海は竹子姉様の案内で応接間に通された。 応接間といっても調度品はほとんど抵当に取られ、売れるものは売ってしまったので、がらんとしている。 応接間にはお父様とお母様がいて、二人とも僕を見るとほっとしたような顔をした。 「ごきげんよう、柳苑寺子爵。」 原和海はにこやかに微笑み、お父様に手を差し出す。 その手を握りながら、お父様は僕の方を見た。 その目が「大丈夫か?」と聞いているような気がして、僕は小さく頷く。 原和海はソファーに座り次第、すぐに話を切り出した。 「貴方方御一家がこの家にいられる期限もあと数日、すでにお手紙を差し上げたように、今日はこの屋敷を追い出された後の話をしに参りました。」 「ええ、手紙を拝見しました。上の娘の病院のこともありますし、下の娘もようやく結婚がまとまりそうなので、このまま東京にとどまりたいた考えています。」 上の姉様は体が弱くて、もう何年も病院に入院している。 姉様のことを考えると、僕たち家族は田舎には行きにくい。 「わかりました。」 原和海は短く答えると、急に僕の方を向いた。 「せっかくだから人の手に渡る前に、生まれ育った屋敷を見て回ったらどうだ?」 暗に席を外せと言われている。 本当はとどまって話を聞きたかったが、僕は素直に頷いて応接間を出た。 廊下に出ると、竹子姉様と、次兄の季陽(ときはる)兄様が僕を待っていた。 「英!おかえり!」 「はなちゃん!」 数日ぶりの再会を喜び、僕たちは抱き合う。 季兄様は大学生だが、うちにお金がなくなってからは休学して、友人の家の会社で働かせてもらっている。 仕事が忙しいんだろうか 兄様は少しやつれているように見えた。 竹子姉様だって、顔色が悪い。
/463ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1951人が本棚に入れています
本棚に追加