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紳士然とした原和海は竹子姉様の案内で応接間に通された。
応接間といっても調度品はほとんど抵当に取られ、売れるものは売ってしまったので、がらんとしている。
応接間にはお父様とお母様がいて、二人とも僕を見るとほっとしたような顔をした。
「ごきげんよう、柳苑寺子爵。」
原和海はにこやかに微笑み、お父様に手を差し出す。
その手を握りながら、お父様は僕の方を見た。
その目が「大丈夫か?」と聞いているような気がして、僕は小さく頷く。
原和海はソファーに座り次第、すぐに話を切り出した。
「貴方方御一家がこの家にいられる期限もあと数日、すでにお手紙を差し上げたように、今日はこの屋敷を追い出された後の話をしに参りました。」
「ええ、手紙を拝見しました。上の娘の病院のこともありますし、下の娘もようやく結婚がまとまりそうなので、このまま東京にとどまりたいた考えています。」
上の姉様は体が弱くて、もう何年も病院に入院している。
姉様のことを考えると、僕たち家族は田舎には行きにくい。
「わかりました。」
原和海は短く答えると、急に僕の方を向いた。
「せっかくだから人の手に渡る前に、生まれ育った屋敷を見て回ったらどうだ?」
暗に席を外せと言われている。
本当はとどまって話を聞きたかったが、僕は素直に頷いて応接間を出た。
廊下に出ると、竹子姉様と、次兄の季陽(ときはる)兄様が僕を待っていた。
「英!おかえり!」
「はなちゃん!」
数日ぶりの再会を喜び、僕たちは抱き合う。
季兄様は大学生だが、うちにお金がなくなってからは休学して、友人の家の会社で働かせてもらっている。
仕事が忙しいんだろうか
兄様は少しやつれているように見えた。
竹子姉様だって、顔色が悪い。
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