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へ、変態で変人……
これはいよいよ逃げ出したくなってきた。
僕のそんな気も知らず、松本さんは朗らかに笑って付け足した。
「あ、この部屋は私の部屋なんですよ。」
「ま、松本さんはこのお屋敷に住んでいるのですか?」
「はい。私は住み込みです。」
松本さんはきっと二十代半ば。
背が高くて柔和な顔立ちの、とてもいい人に見える。
垂れ目気味の目を細め、口角をきゅっと上げる笑い方が優しそうで、僕は一目で親しみを感じていた。
でも……
原和海のもとで働き、原和海と同じ屋敷に住んでいるということは、変態の仲間なのかな。
松本さんは重厚な樫の木の扉の前にやって来ると、ブロンズ製のドアノッカーを叩いた。
「原さん、松本です。柳苑寺英陽君が到着しましたよ。」
中からは返事がなく、松本さんは腕を組んでうーんと唸った。
それからくるりと僕の方を振り返ると、にこっと笑う。
「ちょっと待っていてくださいね。」
「は、はい。」
松本さんは返事のない室内に入っていき、僕はがらんとした廊下に取り残される。
本当に使用人がいないんだ……。
自分の息遣いが聞こえてくるくらい静かな廊下に立っていると、そのことを痛感する。
うちも最後の数年は使用人を抱える余裕がなかったけれど、それでも母の乳母が安い給金で残ってくれて、身の回りのことをしてくれていた。
いったい原和海の身の回りの世話は誰がしているんだろうか。
松本さんは秘書だと言っていたけれど、住み込みということは身の回りの世話もやっているのかな?
そんなことを考えていると、樫の木の扉が開き、着物を大きくはだけた女の人が三人出てきた。
みんな色っぽくて、どう見てもその手の店の女性だ。
僕が驚いて固まっていると、女性たちはきゃあきゃあ言いながら僕の顔を覗きこんでくる。
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