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不安な気持ちになったとき、僕の口にまたサンドイッチが詰めこまれそうになる。
いい加減嫌になって、頭を後ろに逸らしながら、僕は言う。
「サンドイッチ、ご馳走さまでした。もう結構です。」
「そう言うなよ。」
原和海は例の人を小馬鹿にしたニヤニヤ顔で、サンドイッチからはみ出したハムをつまみ食いする。
「こっちは小動物に餌やってるみたいで楽しいんだからさ。」
し、小動物だと?!
「僕はちっとも楽しくありません!美味しかったですけど、貴方に食べさせてもらう必要はないですし、もうお腹いっぱいになりましたから!」
「あー、そういうところが一生懸命威嚇してる兎みたいで可愛い。」
「はあ?!馬鹿にしないでください!」
僕は苛立ちに任せて原和海の体をベッドから押しだそうとしたが、その腕を逆に掴まれ、原和海の方に引き寄せられてしまった。
「ちょ、ちょっと!」
原和海は僕の頭を抱き寄せて自分の胸に押し付ける。
彼の体に密着したことで、僕の鼻から喉にかけて、葉巻のにおいと、原和海自身の匂い……甘いような、苦いような匂い……が通り抜けていく。
なんだか頭がくらくらしてきた……
「なあ英、俺はお前のそういう甘ったれたところが好きだよ。」
「はい?」
頭の上でする声色が真面目だから、思い切り突き飛ばしてやろうと思ったけど、それができない。
「お前には変わらないでほしいな……。」
この人何言って……
原和海が手の力を弱めたので、僕は恐る恐る彼を見上げた。
僕を見下ろす目はすごく優しい。
「お前があの家族を守りたいって言うなら、俺はこのまま手を引かずにいるよ。」
原和海の優しい目と声を前にして、僕の口から気になっていたことがぽろりと転がり出る。
「僕は貴方に何かしましたか?」
「ん?」
「今まで親切にしてくれた理由は、仕事の利益のためだけじゃないですよね。それにさっき柳苑寺家には恩も思い入れもないけど、僕のためには何かしてやりたいと言っていた……。」
「……やっぱりお前は覚えてないんだな。」
「え?な、何を?」
「教えない。」
「はい?」
「お前が思い出すまでは、絶対に教えない。」
「な、なに子どもみたいなこと……!」
なにこの人、大人げない!
「男は永遠に少年の心を持っているものだよ、はなちゃん。」
「その呼び方で呼ばないでください!」
それになんだ、その屁理屈は!
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