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「ちょっと御覧よォ。可愛いぼうやじゃないかぇ。」
「ほんとだわいナァ。コリャなかなかの美少年だこと。」
「今度お店においでねェ!わっちら総出で遊んであげんしょ。」
僕はなんと答えていいか分からず、白粉の匂いにぼうっとしながら立ちすくんでいた。
すると女性たちの後ろから松本さんが顔を出して、彼女たちに言う。
「姐さん方、その子はまだ免疫がないからからかっちゃいけませんよ。」
女性たちはころころ笑いながら答える。
「見りゃァ分かるわいナァ。」
「うぶなとこもまた可愛いもんサ。」
「ほんにナァ。原の旦那みたいな人ばかりじゃァ、わっちらの身が持たんぞェ。じゃあぼうや、また会おうねェ。」
三人の女性たちは僕に妖艶な笑みを残して去っていった。
松本さんは苦笑いしながら僕を手招きする。
「とんだ洗礼を受けましたね。さ、どうぞ。」
いよいよ原和海と会うんだ……。
僕は緊張のあまり、手に汗をかいていた。
部屋に足を踏み入れた瞬間、葉巻のにおいが鼻を通り抜ける。
やはり、葉巻をふかす中年男なのか……
僕が通されたのは書斎のようで、壁が本で囲まれ、足元には書類が散らばっている。
そして目の前には威圧感のある大きな机と、革張りの椅子がおいてあり、松本さんはその前に僕を立たせた。
革張りの椅子はこちらに背をむけていたが、背もたれから原和海の頭頂部が少しだけ見える。
少し乱れた黒髪には白いものがまじっていない。
案外年ではないのかな?
そう思っていると、松本さんが椅子をぐるりと回転させ、困ったように言う。
「もう、不貞腐れないでくださいよ、原さん。」
僕はその時、初めて原和海という人物を見た。
梁の高い鼻、葉巻をくわえた少し厚めの唇、しっかりした顔の輪郭は、どれも野性的な印象だ。
そんな野性的な雰囲気の顔の中で切れ長の瞳だけは冷たく、理知的に光っていた。
そしてなにより、原和海は思っていたよりもずっと若かった。
松本さんよりは年上だろうが、三十かそこらに違いない。
原和海は不機嫌そうに葉巻を硝子製の灰皿に置き、溜め息をついた。
「せっかくのいいところを……。うちの店の三大美人が勢揃いだったっていうのに。」
「昨晩散々楽しんでいたでしょう。それより、彼が柳苑寺英陽君ですよ。」
松本さんに言われ、原和海はようやく僕を見た。
鋭い目で爪先から頭までじっと見つめられると居心地が悪い。
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