夏の日の、帰還

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気がつくと俺は鼓膜が張り裂けんばかりの大音量の拍手と喝采の中にいた。 かなりの数の人が広場と思われるところでひしめき合い、一斉にこちらを見ている。 「は?」 あまりに訳が分からないので思わず声が漏れる。 周りを見回すと、見たことも話したこともないような人たちが俺を囲むように何人か立っていた。 筋骨隆々の大男や、頭に冠を被った壮年のおっさんがこちらを微笑を湛えながら見つめている。 年は俺と同じくらいだろうか。 甲冑に身を包んだ、如何にも剣士やってますとでも言いたげな格好をしている者までいる。 他にも妙ちくりんな風貌をした人たちばかりだが、どれも俺の知らない人たちばかりだ。 そうした人たちに囲まれながら、俺は一人考える。 今、俺が置かれている状況がイマイチ掴めない。 当然だ。 部屋の中で寛いでいたら突如怪しげな陣に囲まれ、そして、この有り様だ。 理解の範疇を超えている。 それでもなお考え続けているうちに、俺はとある結論に辿り着いた。 「分かったぞ、これは夢だ」 声に出して言ってみる。 そうすることで幾分か気持ちに余裕が持てた気がした。 そうなると話は早い。 あとはこの夢が覚めるまで、夢の中での俺の役割を果たすだけだ。 それに、こうして冷静になってみると随分と楽しそうな夢じゃないか。
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