第1章

102/137
前へ
/137ページ
次へ
 夜明け前に柏木が帰っていく時の、 半身を引き裂かれるような悲しみさえ、 わたくしを恍惚とさせる。  こんなにも深く激しく人を愛することができるなんて。  朧月夜はこの悦びを心ゆくまでむさぼり尽くし、 そして満足したから、 仏の道へと進んだのだろう。  でもわたくしは、 まだ足りない。  生まれて初めて知ったこの歓喜に、 わたくしはのめりこんでいた。  柏木が怖いものなどないと言えば、 わたくしも同じ気持ちになってしまう。  この逢瀬を続けるためなら、 もう何も怖いものはない。 源氏の君でさえも。 「源氏の君はまだ二条院に?」  柏木がそんなことを訊ねることもある。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加