第1章

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「その時はおまえが、 また上手に言いくるめてくれるのでしょう? 意地悪婆さんたちを」 「紗沙さま!」 「ありのままに言えばいいのよ。 わたくしは大嫌いな源氏の君の顔を見ずに済んでいるから、 とても機嫌が良いのだって」  それは事実だ。 鵜の目鷹の目でわたくしを見張る女房たちにとっても、 格好のうわさ話のたねになるだろう。  そしてそのうわさが、 わたくしたちの真実を覆い隠してくれる。 「ねえ小侍従。 おまえには感謝しているの」  困り果てたようにうつむく小侍従に、 わたくしは言った。  それは、 単なるなぐさめやお愛想ではなく、 わたくしの本心だった。
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