第1章

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 その時、 わたくしの足元で小さく、 にゃあ……と声がした。 「あらお前、 どうしたの」  それは、 小さな白い唐猫。  もう一匹、 昔から六条院にいる大きな猫に追いかけられて、 わたくしの足元に逃げ込んだらしい。  飼い猫である印に、 首には長い紐を結んである。  わたくしは不意に思いついた。  黙って猫の紐をつかみ、 御簾の上げ下ろしに使う紐に絡ませる。  そして唐猫を抱き上げると、 大きな意地悪猫のほうへぱっと離した。 「そら、 お行き!」  唐猫は大きな猫から逃げようと、 外へ向かって勢い良く走り出した。  紐が引っ張られる。  音もなく、 御簾が巻き上がった。
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