第1章

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 涼やかな風が、 一斉に室内へ流れ込んできた。  そして。  柏木が、 わたくしを見た。  あの、 篝火のようにゆらめく瞳が、 まっすぐにわたくしを捉えていた。  ――見つけた。  声なき声が、 わたくしの耳元でこだました。  ――やっと見つけた。 こんなところに、 あなたはいたんだね。  ――ずっと悪い鬼に閉じこめられていたの? 誰の目にも触れないよう、 こんな奥深くに。  ええ、 そうよ。  わたくしはうなずく。  ――知らなかったでしょう。 わたくしが、 こんな近くにいたなんて。  ――本当だ。 俺はいったい、 どこを探していたんだろう。
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