第1章

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 そして柏木は、 その視線で、 わたくしを受け止めてくれる。  しっかりとわたくしを抱きしめてくれる。  世界中が真っ白になって、 消えていくような気がした。  その時。  鋭く、 咳払いが響いた。  夕霧中納言が、 まくれ上がってしまった御簾のそばに立ち、 しきりに咳払いして、 女房たちの注意を喚起している。  夕霧も、 室内の様子が見えていることに気づいてしまったのだ。  大声で怒鳴り、 返ってみなの注目を集めてしまうような不作法はせずに、 早くどうにかしなさい、 と、 無言でうながす。 堅物の能吏として名高い夕霧らしい、 礼儀と対面を重んじた、 生真面目なやり方。
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