第1章

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   二 桜惑う  あの日。  むせ返りそうなくらいに満開の桜が咲き誇り、 よく晴れた空にまばゆい光があふれていた、 あの日。  わたくしたちは、 もう一度出逢った。  その日は、 昼過ぎあたりから何となく六条院全体が騒がしく、 落ち着きのない空気に包まれていた。 「ねえ、 小侍従。 どうしたのかしら。 なんだかおもてが騒がしいみたいだけど」  わたくしは行儀悪く立ち上がり、 御簾の外を眺めた。  風もぱったりと止んでしまった春の午後、 室内の空気は次第に蒸し暑くなっていた。 御簾を巻き上げ、 几帳を片づけても、 なかなか風が抜けていかない。
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