第1章

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 澱んだような空気に、 この六条院に来てから飼い始めた唐猫もなんだか機嫌が悪く、 しょうのないいたずらばかりしていた。 「東北の町に、 夕霧の若様がお友達を大勢連れておいでなんですって。 ほら、 あちらには広い馬場などもございますから」  東北の町は、 別名夏の御殿。 女主人は花散里の君。  この人は、 先々帝桐壺院に仕えていた麗景殿(れいけいでん)女御の妹君で、 源氏の君との関係は紫の上よりも古いという。 身分は高貴だが裕福な後見もなく、 容貌も他の女君にやや見劣りするものの、 優しくおっとりとした人柄が愛されて、 源氏の君のただ一人の息子、 夕霧中納言の母代わりをつとめているそうだ。
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