第1章

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「おーう!」 「あーりゃっ!」  小さな布製の鞠が高く中空へ舞い上がるたび、 庭のあちこちから高い歓声があがった。  渡殿には源氏の君や、 蛍兵部卿宮の姿もあった。 鞠を追う若者たちを眺め、 扇で指し示したり、 なにか小声でささやき交わしたりしている。  そして――。 「柏木……!」  胸の奥で、 心臓がどくん!と大きくひとつ、 跳ね上がった。  散り急ぐ桜のもと、 柏木が立っていた。  桜吹雪の中、 庭を走り回る若公達。  その姿を、 女房たちが御簾の陰から透かし見る。 声を抑えた歓声やため息が、 部屋のあちこちから漏れた。
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