第1章

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 若者たちは夢中で鞠を追う。 日頃は謹厳実直を絵に描いたような夕霧まで、 冠が歪むのにもかまわずに、 声をあげて走り回っていた。  そんな中で、 柏木の姿はひときわ目を惹いた。  彼は、 誰よりも高く鞠を蹴り上げる。 誰かが蹴りそこなってとんでもない方へ飛んでしまった鞠も、 素早く落下点へ走り、 もう一度庭の中央へと蹴り戻す。  その姿はわたくしの記憶にあるよりも少し痩せて、 目元のあたりに深い陰が落ちているように見えた。  けれど、 あの瞳は同じ。 初めて見た時と変わらない、 深く輝く篝火のような瞳。  わたくしは思わず立ち上がってしまった。
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