第1章

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 今、 柏木はなにをしているのだろう。 今もまだ、 一人でなにかに苦しんでいるのなら、 同じ苦しみをわたくしも背負いたい。 彼のためになにもできなくとも、 せめてわたくし一人がのうのうと過ごしていることのないように。 彼とともに苦しみ、 傷つき、 のたうち回れるように。  けれど柏木は、 そんなことを望んではいないのだろうか。 わたくしには、 柏木のためにできることはなにもないのだろうか。  御簾の中でどんなに彼を思っても、 それを伝える手段がない。 彼の様子を確かめるすべもない。 弁の君はもう、 小侍従ともろくに顔を合わせようとしないそうだ。 小侍従が柏木の手紙を受け取りに行っても、 ほとんど口も利かず、 すぐに逃げ去ってしまうらしい。
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