第1章

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「落ち着いたら、 そのうちゆっくりとお話いたしましょう。 それまでの間、 あなたのつれづれをなぐさめてくれる者でもあれば良いのですが」  ……本当に、 なんて嫌な男。 わたくしがひまを持て余して、 退屈しのぎに柏木を通わせたとでも言いたいのか。 わたくしたちの恋を、 そうやって貶めて、 笑いものにしようというのか。  いかにもおもしろそうにわたくしを眺めるそのしたり顔を、 この爪で引き裂いてやりたい。 女房や家人たちの眼がなければ、 わたくしは物の怪に憑かれたみたいに暴れ狂っていたかもしれない。  わたくしにできるのはただ、 扇の陰で唇を噛みしめ、 涙を堪えることだけだった。
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