第1章

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     四、  血は、 紅(くれない)  やがて時がうつろい、 夏の盛りを迎えても、 わたくしの不安は消えなかった。  東北の御殿の庭がもっとも美しい時期を迎え、 それを愛でるためか、 夕霧のもとを何人もの上達部が訪れているらしい。  夏の暑さがようやく一段落した頃、 紫の上が一旦六条院へ戻ってきた。  体調はまだ本調子ではないようだが、 どうしてもこちらへ戻らなければならない理由があった。  東宮のもとへ入内した源氏の君の一人娘、 明石女御が懐妊し、 いよいよその出産が迫ってきたのだ。  女の穢れとされる出産を、 内裏の中で行うわけにはいかない。 必ず里邸に宿下がりして産む。 その時はもちろん、 女御の実家、 一族郎党すべてが総力を挙げて出産を支える。 女御がつつがなく出産を終えるように、 なによりも男皇子が無事に誕生するようにと。
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