第1章

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 わたくしは小少将の手紙になんと返事をやればよいか、 考えつかなかった。 だって真実はまだ、 わたくしにもつかみ切れていないのだから。  そしてわたくしや小侍従が返事を書けば、 それはきっと夕霧に見つかり、 取り上げられてしまうだろう。 わたくしたちだけではなく、 小少将やお姉さままで危険にさらしてしまう可能性がある。  今はまだ、 目立つことはできない。 「夕霧さまは、 病床の柏木さまとお文のやりとりをなさったと、 その手紙を主上にもお目にかけたそうです。 宮中で働く女房たちが、 うわさしていましたわ」 「その文も全部、 夕霧が書いているのね。 お兄さま――主上は、 同じ人間の筆跡(て)だって気がつかれないのかしら」  自分で言って、 わたくしは自分で小さく首を横に振った。 異母兄(あに)はそこまで鋭い人間ではない。 英明で観察眼に優れた冷泉さまならともかく。
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