第1章

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 だって尼となったわたくしは、 もう死んだも同然の身なのだもの。 誰かの妻として扱われたり、 ましてや子供を産むことなど許されない。  教えてやりたかったの。 都中の人間すべてが自分の思い通りになると信じている、 源氏の君に。  人は、 そんなものではないということを。  どれほど弱く、 敗北に狎(な)れた人間であっても、 時には勝者に逆らい、 けして屈服しないことを。  どんな人間にも、 けして曲げない誇りがあることを。  そして源氏の君。 あなたはそういう人間をこそ、 愛するのでしょう?  もしもわたくしがあなたに服従し、 あなたの意のままになるようなら、 けしてあなたはわたくしを愛したりはしない。 そんな意思のない人形のような女に、 あなたはいつまでも関わり合おうとはしないはず。
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