第1章

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 柏木の死は、 六条院とは無関係。 彼の発病が、 源氏の君と結びつけられて考えられることはない。  わたくしは、 柏木の死を嘆くことすら許されなかった。  物の怪がついた、 との夕霧の一言が、 わたくしが何を言おうとも、 すべてでたらめにしてしまう。 誰もわたくしの言うことを信じようとしない。  わたくしのこの涙も、 単に物の怪が流させる意味のないものとして扱われ、 ともに嘆いてくれる者すらいないのだ。  柏木の死が公表されたのは、 それから一月あまりも経ってからのことだった。  六条院での試楽のあと、 流行り病に倒れた柏木は、 一条の屋敷で高熱に苦しんだのち、 親元に引き取ろうとした太政大臣の手も間に合わず、 手厚い看護の甲斐もなく息を引き取った、 と。
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