第1章

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   五、  明け鴉、 鳴く  わたくしが正気を取り戻した時、 あたりはすっかり片づけられていた。  壊れた格子は元どおりに修理され、 鮮血に汚れていた床もきれいに清められている。 柏木が断末魔の苦しみにのたうち回ってしがみつき、 血まみれの手形が印されてしまった几帳は、 真新しいものに取り替えられていた。  わたくしの衣も単衣から袴から、 すべて新しいものに着替えさせられていた。 その袖にも寝具にも濃厚に香が焚きしめられている。 血の臭いをごまかすために。  あの惨劇の痕跡は、 何ひとつ残されていなかった。
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