第1章

26/103
前へ
/103ページ
次へ
 わたくしはそっと小侍従を招き寄せ、 小声でささやいた。 「ねえ小侍従。 お父さまのところへ行ってきてほしいの」 「え? 朱雀院さまのところへでございますか?」 「ええ。 聞いてきてほしいことがあるのよ」  そう、 お父さまならきっと知っているはず。 かつてささやかれたという、 冷泉さまについてのうわさを。  手紙で問い合わせるわけにはいかない。 お父さまからの手紙は、 源氏の君もすべて目を通す。 そしてどんな返事を書けば良いかまで、 わたくしに指示をする。  わたくしはあたりさわりのない時候の挨拶を文にしたため、 小侍従に持たせた。  小侍従は衣装をととのえると、 緊張を押し隠し、 六条院を出ていった。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加