第1章

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 女房たちがひそひそとうわさする。 「衛門督さまが、 なにやらご不慮とか」 「あの試楽のあと、 急にお床につかれて。 たちの良くない流行り病らしくて、 一条のお屋敷では、 どなたのお見舞いもお断りされているそうですわ」 「北の御方、 あの落葉の宮さまがつききりでご看病なさっていますのね」 「お偉いお坊さまの加持祈祷も役に立たず、 たいそうなお苦しみだとか……」  まるで、 柏木がまだ生きているかのような話をささやき交わす。  柏木の死は、 公表されていないのだ。  いったいこれは、 どういうことなの。 「一条御息所さまのお屋敷だけでなく、 柏木さまのご実家の太政大臣家でも、 何人もの陰陽師や咒禁師(じゅごんし)を呼び集め、 回復祈願のご祈祷も昼夜を分かたず続けているそうですわ」  小侍従がそっとわたくしに告げた。
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