左大臣家の三の君。

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紅梅の襲に袖を通すと梅香の香が香った。 敦子は成長した娘の艶姿をうっとりと見とれる。 形の整った桃色の唇が敦子に向かって微笑まれた。 単を胸に寄せながら… 「母上?」 「…僅か1年といえど離れるとなるとやはり淋しくて…。」 目元を押さえて涙を堪える。 淑子はいざりよる。 「母上、なにも永久の別れと言うわけではございません。 弘子姉上をお慰めするだけです。」 「わかっています。弘子を、女御様を宜しくね。」 「ええ勿論。」 できる限り優しく表情を崩す。 「淑子、参るぞ。」 「はい。」 すっと立ち上がり、衣擦れの音をたてて袙扇を開き簀に出る。 牛車の牛が低く鳴いている。 藤中将に手を引かれながら乗る。 ぎっと軋む音がした。
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