16人が本棚に入れています
本棚に追加
紅梅の襲に袖を通すと梅香の香が香った。
敦子は成長した娘の艶姿をうっとりと見とれる。
形の整った桃色の唇が敦子に向かって微笑まれた。
単を胸に寄せながら…
「母上?」
「…僅か1年といえど離れるとなるとやはり淋しくて…。」
目元を押さえて涙を堪える。
淑子はいざりよる。
「母上、なにも永久の別れと言うわけではございません。
弘子姉上をお慰めするだけです。」
「わかっています。弘子を、女御様を宜しくね。」
「ええ勿論。」
できる限り優しく表情を崩す。
「淑子、参るぞ。」
「はい。」
すっと立ち上がり、衣擦れの音をたてて袙扇を開き簀に出る。
牛車の牛が低く鳴いている。
藤中将に手を引かれながら乗る。
ぎっと軋む音がした。
最初のコメントを投稿しよう!