左大臣家の三の君。

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渡殿に響く多くの衣擦れの音。 感じる幾つもの視線。 淑子を見たいがために飛香舎近くに集まった殿上人たちのものだ。 「あれが藤壺女御様の妹君か…。」 扇の陰で。 「美しいお髪だ。」 「えぇ…引き寄せて顔をうずめてみたいのう…。」 背筋がぞっとする。 少しでも早く南殿にたどり着きたくなった。 藤壺から出てきた淑子を見詰める殿方がいる。 背が高く色が白い。 凪いだ瞳に淑子を写す。 「…。」 几帳の隙間から僅かに見える美しい顔立ちが心惹かれた。 「…。」 「ーー様!此処にいらっしゃいましたか!」 殿方とは対照的に小柄な従者が急ぎひかえてきた。 「早う、南殿へお越し下さい!」 「今行く…。」 殿方は踵を返した。
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